かえるくんのおうちラボ blog

おうちでぼんやりと思うこと

たったのひとつも嫌なことがない入院

 

1月8日、今日で3回目のステロイドパルスもおしまい。

入院当日から点滴をして最後の点滴が済んだらその日のうちに帰るという本当に最短の入院期間で頼み込んだので、点滴が終わったらそのまま今日のうちに退院です。

それでも2022年12月23日から2023年1月8日の17日間もの入院になりました。

実は今週になってからそろそろ退院を意識し始めたときに、驚愕の事実に気がつきました。気がつくと入院の間にたったのひとつも嫌なことがないのです!こんなことある?

自分で良さそうなホテルを選んで、自分の時間で起きて出かけて好きなもの食べてお酒とおつまみ買って帰って飲んで寝るという煩悩生活でも17日もつづけてればこうはならないでしょ。

病院1階の廊下を歩いているときにふいにこの事に気づいた時には、ものすごい体験すぎてあと数日のうちに嫌なことがったらどうしよう?ってちょっと緊張しました。

ちょっと大袈裟に感じるかもしれませんが奇跡でしょ。

考えてももう一回再現できるとも思えないのですが、少しでも記録にのこしておきたいと思ったのです。なにが起こっているのかわからないので着地点もわからない危険な香りもしますが。

 

病院のこと

まず大前提として、とってもいい病院だったんです。前にもかいたとおり看護師さんやスッタフの方のごく自然体のホスピタリティが本当にすごいのです。実際にはのんびりとした病棟だったわけではなく新型コロナウイルスの治療もしている病棟で立入禁止区域の先では物々しい装備で身を守った看護師さんが昼夜を問わず静かに忙しく患者を受け入れていました。それでもそんな事情からくる負担をいっさい患者には負わせる事なく、それぞれの患者さんに必要なケアをしてくれました。もう本当にすごい人たちだ。

クリスマスやお正月にティーバッグで折り紙を折って渡したりしているとクラークさんがお礼に折り紙を折り返して持ってきてくれた。本当になんて人たちだ。

そして主治医の先生もとても良い先生でした。これから行う治療の方針と実際の治療の結果をそのつど丁寧に説明してくれて、「白衣」ではなくきちんと言葉で信頼を積んでくれる先生でした。こういうの相性もあるよね。

治療がまずまずうまく行ったということもあります。けれど、意外とこれは大きくないように思います。もちろん上手くいかなかったら嫌なんだけど。それでもなんだかんだと病気との付き合いも長くなったので、病院に求めるのは「その時点で最良と思える治療の選択」であって、「最高の結果の保証」ではないなという当たり前だけど受け入れるのが難しいことも自然にわかってきてます。結局は自分のからだが起こすことなのでやってみなきゃわかんないことはとっても多い。今回のように、きちんと治療と自分の状態について知っておくことができれば、誰か任せの治療ではなくなるので明らかな失敗がなければ結果には大きく左右されなかったんじゃないかなと思います。

仕事のこと

入院当初は焦りもありました。実はIgA腎症に対しては将来の透析を避けるためのことを全部やっとくなら、やっぱりまずは扁桃摘出とステロイドパルスでしょという話は2022年の3月から始めていました。年度はじめからシルバーウィークとお正月に狙いを定めて仕事を調整し、早い段階で関係する会議などでも病気と治療の予定を伝えてきていたのです。9ヶ月ほど仕事の調整をして年末にステロイドパルス入院にこぎつけたので、新型コロナウイルス感染などで一瞬でひっくり返ったらどうしようという思いもありました。またもう一回仕切り直すなんて無理でしょって思っていたので、とにかく一生懸命休むというヘンテコな覚悟をきめていたのです。この変な感じは大晦日に文字にしてみると、変な気負いはするっと落ちていきました。

treefrog-labo.hatenablog.com

あと扁桃摘出の入院の時とちがって、仕事ははなから無理だなって思ってました。あの時は離れててもできる仕事をもちこんでいましたが、年末は職場やメールの先の人たちもみんなが休みに入る時期です。手伝ってくれる人がいなきゃリモートなんてやっぱり無理なので、病院からあれこれ勝手なお願いするののはやめようと思ってなんにも仕事をしませんでした。

家族のこと

こどもたちにクリスマスもお正月も、下手したら冬休み中、お父さんが入院しているという思い出を作ってしまうのは少し気が引けました。でもぼくも子供の頃、父親が正月に入院していた時のことを覚えていて病院の窓から見える公園でゲイラカイトを上げたり、お見舞いに行って病院の薄暗い廊下の自動販売機でアルミホイルに包まれて温められて出てくるサンドイッチを買ってもらったのを覚えています。どんな出来事も思い出にはなるなと思うところもあって、気に病んでもしかたないなと思っていました。実際、家でみんながお昼ご飯や晩御飯を食べるときに特になにもなくてもFaceTimeで食べてるところを中継してくれたりと、奇妙な出来事が心に残ったんじゃないかな。

それよりも、コロナウイルスが再び流行しているなかで1人で家を守ることになる妻にはすごいプレッシャーになるなと思いました。でも妻は少なくとも表面上はいつものように淡々と受け止めて過ごしてくれました。

ゲイラカイトこんなのです

病院での時間

 情報のインプット

とくに何かをしようとも思ったわけではなく、本当にのんびりしながらも全然退屈しませんでした。入院してからすぐに治療が始まりましたが、開始後も幸い大きな問題もなかったので、時間があるなとは思ったけれど。

それでも老眼のせいで読書がおっくうになってしまったので、この際のんびりまた本を読もうと何冊かもってきました。あとDVDも。

持ってきた本とDVD。これ以外に朝日新聞社×講談社×NetGalleyの作家応援企画の新刊発売前レビューが当たっていたのでそれは読んでレビューを書きました。

全部、新しい本じゃなくてなんとなくもう一回読むかなと思ってもってきたので、パラパラめくって思い出しながら満足して結局ちゃんと読んだのはありません。スピカの2号だけは入院中に家に届いたので目あたらしい本でした。

好きなチェコ映画は、入院直前に職場のやはり映画好きのひとにオルドリッチ・リプスキーを強くお勧めしてむりやりDVD BOXを貸し付けてきたので、その気分でチェコGOTH boxとチェコアニメを持ってきました。バカだなーと思いながら(チェコ映画はそういうノリです)BOXから1本みて共産時代のかわいいアマールカというアニメをちょっと流し見したくらいでやはり見ませんでした。

いまみるとリプスキーBOXおそろしい値段になっている

入院中に見たテレビは「ゆく年くる年」と「おもしろ荘」とNHKの「時論公論」っていう10分のニュース解説の1月5日分でした。「機動戦士ガンダム 水星の魔女」は実家と電話していて見そびれちゃったのでAmazonプライムでみました。

新しい本は、なんとなくメルカリでブラジル・ポルトガル語の本を2冊買いました。こどもの学校の友達や仕事で会う人たちに中にブラジルから来た人たちも多く、話せたらいいなぁと思っていたのです。

あとは入院したら必ずやってきてお見舞いを置いていく、ぼくの騎兵隊が今回も来てくれました。

いつもながら、入院の気分を軽くしてくれる最高のチョイスのお見舞いです。

そうそう年末年始くらい新聞をじっくり読もうと思って買ってきて、なんと一文字も読みませんでした。

読まれることのなかった新聞。いま家で猫が乗ってます。

結局、ポルトガル語は1日のルーチンに入ったので少しずつ読みましたが、「17日もいたんだよ!?」って言いたくなるくらいに全然情報を吸収することはなかったのでした。

 ご飯を食べる

病院のごはんは主食だけセーブしましたが、それ以外はぜーんぶ食べました。腎臓食なので食べられるものに制限が多く、薄味のおかずがちょっぴりで基本的にカロリーは炭水化物で摂るというメニューでしたがとっても美味かったです。

平均的にはこんな感じのバランスが基本です

ちなみに普段の僕の食事はえらいことになっていて繊細な食事はぜんぜんしてません。入院のちょうど1週間前の週末に食べたものはこんなものでした(出張だったんです)。

とりあえずお酒

煮干しのおつまみ

丿貫というお店の煮干しそばclassic

またお酒

渡り蟹そば

またお酒 以下アルコールは省く

関内の汁なし二郎粉チーズトッピング

ガンダム見ながらハンバーガーセット

寿司五貫とラーメン 釣りきんというお店のセットなんです

ハロ

白トリュフラーメン

普段のぼくはラーメンを崇めているので、とても病院食で満足できるとは思えなかったのにとても満足でした。

これは扁桃摘出からずっと続いている味覚障害と腎臓食との相性がすごくよかったというのがあります。塩味がわからないぼくにとって、ナトリウム制限のなかで出汁や柑橘や胡麻の香りで工夫して味付けしてくれている腎臓食はとても美味しく感じて、出てくる食べ物をゆっくり味わうようになっていました。

いままでは「そうそう二朗のこの味」というふうに食事で得られる味覚をすでに知っている味覚カタログのどれかだと判別し、実は記号を味わっていたんだろうなと思いました。ゆっくり何の香りのどんな味か味覚情報のかたまりとしてごはんをとらえながら食べられたんだと思います。入院中の買い食いは「えんどう豆スナック濃厚ガーリックバター味」と「どん兵衛天ぷらそば」の二つでしたがどちらもおいしく感じませんでした。それとしゃっくりを止めるためにチョコレートを4粒程度、あとは家から持って行ったレトルトお雑煮と海老のビスクスープ。

結局ほぼ病院食だけを食べて、しかも美味しいなとおもいながら過ごしました。

 体を動かす

入院で唯一ちょっと考えておこうと思ったのは体を動かすことでした。たとえほんの数日の入院でも日常生活を離れるとあっというまに体力が落ちてしまうものです。とりあえず家にある腹筋ローラーとスレンダートーンとトレーニングチューブを持って行きました。入院中はタンパク摂取が限られているので運動時にクローン病に対する成分栄養剤のエレンタールを摂ることにしました。今回の部屋には付き添い用にソファーベッドが備え付けられたいたので、すぐに倒してストレッチも行うことにしました。

入院初日にストレッチ台と化したソファは退院日までずっとこのままに。

タチコロです。病院の床に抵抗がありましたが、清掃の方がいつも丁寧に掃除してくれるので安心できたのと、立ち位置にはシャワー用使い捨て足拭きマットが使えたので、ローラーはアルコールティッシュで拭いて出来ました。

エレンタールはとても吸収のよいアミノ酸なので運動に良いかなと。

スレンダートーンを巻いて単語帳を持って中庭を声出ししながら少し歩いて、あとは8階まで階段を4往復。これで大体30分くらいでした。

ちなみにウォーキングとちがい階段運動は上げる脚のかかとを上げず常に地面につけるように昇降すると、もう履けなくなったあのパンツが履けるようになります。

退院したら学生の時以来履けなくなっていた大好きなパンツが履けました。ずっと処分しなくて良かった。25年ぶりに上下お揃いでヴィンテージコットンライダースが着られます。いえーい。

 1日のルーチン

病院では自然にこんなルーチンになりました。

  • 早起きをする。(といっても6時30分くらいですが)
  • ストレッチをする
  • VOICYの3秒英会話をする
  • 「魔法の発音カタカナ英語」の例文をいくつか練習する
  • Duokingoという言語学習アプリで英語に取り組む
  • キクタン ブラジル・ポルトガル語を単語帳に書き写す
  • はじめてのポルトガル語の例文を単語帳に書き写す
  • スレンダートーンを巻いて単語帳とAirPodをもって病院の階段の往復にでかける
  • タチコロ
  • レーニングチューブを使った運動
  • MaciPadタッチタイピングの練習
  • なにか文章を書く
  • 読書する

ポルトガル語をやってみるなら、英語も話すのも聞くのもてんでダメなのでついでに足して、文章を書くのが苦手で致命的に遅いのでちょっとその辺もやってみようかなと。自己流のタッチタイプを直したからといって文章がよくなるわけではないでしょっと突っ込みたくなるけど。

今日は読書してないね。

出来たり出来なかったり。今日は読書してないね。できなくても気にしないスタンスでやってました。

 

何がどう作用してまったく嫌なことのない17日間になったのか

とてもすごい人たちから入院中のサポートを受けられていたのですが、それ以外にだらだら書き連ねてみてちょっと思うことがありました。よかった。

 

入院中はほとんど本も読まずテレビも見ず新聞もよみませんでした。

ちょっとこの状況で、高校生のころにSTUDIO VOICEという雑誌で知ってずっと印象に残っているヤノベケンジのタンキング・マシーンという作品を思い出しました。

jmapps.ne.jp

体の境界が曖昧になるような生暖かい生理食塩水に浮かんで、光も音も目を閉じているのか耳を塞いでいるのかわからないような情報のインプットのない状態で、ヒトのうちから湧き出るものはどんなものだろうというアイデアを象徴する作品だったと思います。

そう、なんにも考えずなんにも刺激を摂取しない生活が全体としてタンキング・マシーンに入った生活みたいだなと思ったのです。なにか自分のなかで自動書記のように出てくるなにかを見つめるともなく見つめてるような時間だったかも知れないなと思うのです。

最近の言葉だと、ずっと続くマインド・ワンダリングのような感じに近いのか。マインド・ワンダリングとは目の前の課題から離れ「心がフラフラとさまよっている状態」のことで、効率を下げるとも創造性を上げるとも言われています。要は集中力がとぎれて散漫になってることをかっこよく言ってるんかな。

そしてもう一つ、すごく対極にある行為として「食べる」というものがありました。先に書いた通りぼくは入院中のごはんを本当に楽しみました。付いてきた醤油もほとんど使うことなく、調理された食べ物をぼくの中のカタログと照合することなくひたすら味わっていました。これって、どこか胡散臭くて今ひとつピンときてなかったマインドフルネスみたいなことなのか?これがそうなのか?とちょっと思ったのです。

ja.wikipedia.org

ぼくは「こころここにあらず」と「いまのここに目を向ける」という真逆のような状態を繰り返しながら、やりたくなったことをゆるく毎日繰り返していたのかな。

うーん。なんだかこの辺りのような気はするけれど、自分で持ち出しておきながらマインド・ワンダリングとかマインドフルネスとか、ましてや嫌なことや不満は自分の中の出来事だから自分の心の置き方で・・とか、そんな言葉にはまとめたくない気がすごくしてきているので、ここでやめとく。

たぶん情報を手放すこと、そしてすでに自分の見慣れた世界を分類して収めた頭の中の図鑑やカタログを手放すことなんかが、この17日間に大事だったのだろう。

そしてまるで昔の文化人が温泉旅館で湯治をしているような、こんな時間をまたいつかもっても良いなとか思っちゃってる。できるかな。

ねこずお出迎え。ただいまー

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関係ないけれど、入院中は腎臓内科の主治医と皮膚科の先生とファミリーマートに2人いた男性店員以外は接する人はみな女性でした。病院は女性が動かしているのだ。o hospital(男性名詞)なのはなっとくいかないなあ。

病院のみんな、とってもとってもありがとうございました。

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1月9日 なんと家に1泊しただけで緊急入院になってしました。

いやー、またいつかとは書いたけど早いな。