ずいぶん長いことあいてしまいました。
入院中に溜まったやることをやや必死でやってたら気がつくと2ヶ月もたってました。
そして今日入院になりました。
気楽に書くつもりが、少し下書きに溜めているうちに大分たまっちゃったのでまとまりがないまま出していきます。これは10月の中頃に書きかけてたものです。
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前回の味覚障害の話はコチラ
「塩味」がわからないというのは本当に凄い味の変化で、「辛さ」なんて本当にただの痛みとしか感じないし、いわゆるコクとかうまみのよさがほとんどわからないのです。
いや待て待て、本当に塩味だけがわからなくなるなんてあるかな?正確にはどんなふうに味覚がやられてるんだろうか?どこが壊れてこうなった?
そして、ちょっと考えるのが怖いけれどもう治らないのかな?
すこし落ち着いて考えてみました。以下は考えた時系列のとおりの記載ではありません
目次
- 扁桃摘出術と味覚障害
- 味覚の評価:甘味・塩味・酸味・苦味の何がどれくらい?
- 塩味と酸味がわからなくなった原因はなにか
- 味覚がダメな場所はどこか
- 「のみこみ= 嚥下」の運動がだめな場所
- 味覚受容体とチャネルタンパク質
扁桃摘出術と味覚障害
術前に耳鼻科の先生から「ときどき味覚障害がでる人がいてね、1〜2ヶ月で治った人もいるし、かなり長くかかった人もいる。1人だけ何年もずっと治らず今も治っていない人がいる」と説明がありました。それは困るなぁと思いながら自分がそうなるとは思わず、その時は「きっと顎は外れてしまうだろう」とか「また麻酔で寝てる間におしっこの管を入れられるのか、嫌だなー」とか考えてました。
実際、そんなに味覚障害って起きるのかな?
調べてみると扁桃摘出術後の味覚障害について世界の報告をまとめた論文がありました。
これによると報告によってバラツキが大きいけれど、術後2週間以内の味覚障害の患者報告率は8.6%から32%でした。
ざっくり1割弱から3割くらいで味覚障害がおこるってかなり多くない?しかも、ぼくの場合は2週間以上たってから気づいたわけで、そうすると実際の患者はもっと多そうなんですけど。論文のなかでも「多くの患者が検査するまで味覚障害を認識できない」から十分な情報がないって書いてあります。
もっと味覚障害についてまじめに考えてたらよかったか。いや、まあどっちにしても手術は受けたとおもうけどね。
すこしほっとしたのは、ほとんどのケースで術後6ヶ月以内に症状が消失したと報告されていることです。
ちなみに、この論文では扁摘術後の味覚障害の報告はすべてヨーロッパと日本からだと書いてありました。それ以外の地域が手術がめちゃうまいというわけではないでしょうし、味にこだわる国民性なのかな。ヨーロッパを一括りにするのは乱暴か。
味覚の評価:甘味・塩味・酸味・苦味の何がどれくらい?
とにかく塩味がわからない。味覚というのは相互作用でなりたっているみたいで、塩味がわからないだけで旨味も油の香ばしい味も何もかもが変化してしまう。
でもわからないのは本当に塩味だけなのかな?
というわけで、まずはテーストディスクというものできちんと評価してみました。
ちなみに味覚には甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5種類があるとされていますが*1、このキットで調べられるのは甘味・塩味・酸味・苦味の4種類です。
テーストディスクの検査は、これらの4種類の味をそれぞれ5段階の濃さで調合した試薬を濾紙ディスクに染み込ませて、どの濃さで正解するかというのを舌6ヶ所で確かめるという、ちょっと気の遠くなりそうなものでした。うわーーー・・
この6つの選択肢から回答する
左右3対の6カ所にディスクを置いて調べる。
ちょっと気が遠くなったので「濾紙ディスク法味覚検査キットを用いた簡易な味覚検査法」(西田 幸平ら, 日本耳鼻咽喉科学会会報,2021 年 124 巻 5 号 p. 763-769 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/124/5/124_763/_pdf)をアレンジして濾紙ディスクで舌先一箇所だけを調べることにします。
さらに同僚にお願いして、ぼくのいないところで5段階の濃度で染み込ませた濾紙を苦味の種類以外の味をシャッフルしてもらったものを用意してもらい、セルフテストしてあとで自分で答え合わせするという方法にしました(パッチテストならぬボッチテスト・・・)。他の味覚への影響を避けるために苦味だけは最後と順番が決まっています。
言葉だとわかりにくいですが写真を見ればすぐわかると思います。
(実施日 10月7日: 手術の3週間後)
こんなキットです。それぞれの味は1 → 5の順で味が濃くなります。
このように、苦味(Q)以外を○, △, □とわからないようにして5段階の濃さの濾紙ディスクを用意してもらいました。○, △, □の「答え」は別紙に書いて封をしてもらってます。
ぼくはこの中に「無味」はなくて、かつ最後が「苦味」だと知っちゃっているので、他の味が一つわかればそれだけで消去法でかなり選択肢を絞れちゃいます。これじゃきとんと判定出来ないかもと思いつつ、やってみた結果は次のようになりました。
甘味 [1] 一番薄味で正解
塩味 正答得られず
酸味 [5] なんとか正解
苦味 [2] 2番目の薄さで正解
こんななんちゃてテストでも塩味はまったくわからないと判明するなんて。
実際には○=S(甘味), △=T(酸味), □=N(塩味)の順で濾紙ディスクは並んでいて、最初の○の甘味はすぐにわかりました。続いて△を始めたときになかなかわからず5番目で酸味と記入、次の□を始めてからもわからず4あたりで「しまったこれが酸味だ。さっきのは塩味だったか」と思いながら4と5に酸味(本当は塩味)と記入したのでした。
結果:塩味は全然わからない 酸味もかなりダメそう
塩味と酸味がわからなくなった原因はなにか
塩味と酸味を感じなくなっている事がはっきりしました。何が原因でこうなったのでしょう。
これまでの報告をみると味覚障害の原因は直接的な手術による影響として
- 手術器具や術後の腫れよる神経圧迫
- 味覚神経への直接接触による神経障害
- 味覚神経の切断
の3 つが考えられていて、そのほかに
- 舌の圧迫や炎症
- 薬剤による影響
- 亜鉛やビタミンなどの栄養の欠乏
などがあるようです。
ここでちょっと他に気になってることがあります。前回、手術の後から食べ物の「のみこみ」がうまくできないとサラッと書きましたが、実はいまも「のみこみ」がうまくいかないのです。
味覚と同時に運動がダメとなるとギクリとします。脳から出る、もしくは入る感覚神経と運動神経というのは対になって一緒の束になっていることが多く、特に舌の神経は一つの神経が運動も感覚も担っていることが多いからです。
たとえば舌咽神経なら
”舌咽神経(ぜついんしんけい、glossopharyngeal nerve)は12対ある脳神経の一つであり、第IX脳神経とも呼ばれる。 知覚、運動、味覚の混合神経。 脊髄上部の側面から脳幹を出て、迷走神経に近づいていく。 舌咽神経には多くの働きがある。”
といった具合です。
もしかして神経が壊れちゃった?
味覚がダメな場所はどこか
ぼくは多量の塩をなめれば味がわかるのですが、この時、塩を乗せた舌先で味を感じることはなく、舌の根元か喉の奥の方で塩味が広がってくるのを感じます。
つまり神経の障害だとしたら、大錐体神経と舌咽神経は無事で鼓索神経がダメということになります。
「のみこみ= 嚥下」の運動がだめな場所
さきに書いた通り、いまだにのみこみが上手にできません。なにかを食べたり飲んだりする時は口の天井がしびれるような変な感覚があり、しかもパンを飲み込もうとすると「ムニューっ」と、のどから鼻の後ろにパンが上がってきてしまうのです。
「のみこみ」は嚥下といって下のような複雑な動きでなりたっています。下図の2段階目のところで、軟口蓋(口の奥の柔らかい天井)が鼻への道を閉鎖する動作がありますが、ここがうまくできていないようです。
人体の正常構造と機能【第4版】p198より
そういえば、手術のあとはベッドに横になると「喉の奥でなにかが垂れ下がってきて息ができなくなる」という症状に悩まされました。
喉の奥でなにかが垂れ下がってきて息ができなくなる
塩味がないよ ① - 味覚障害のはなし(扁桃摘出術編) - かえるくんのおうちラボ blog
この二つの原因を考えていくと僕の場合、軟口蓋筋群の口蓋帆挙筋(こうがいはんきょきん)という筋肉がうまく動かなくなっている気がします。
ハッとして手術直後の口中血だらけ写真を見返すと(もう写真は貼りませんが)、口の中のむにむにしてたものは血の塊と思っていたけれど、正に口蓋帆挙筋が引っ張るはずの軟口蓋ではありませんか。
口蓋帆挙筋は咽頭神経叢経由で迷走神経という神経のの支配を受けるようです。
味覚の方は鼓索神経が左右同時にやられて運動では迷走神経がダメに・・・というわけですが、2種類の神経がそれぞれ一度にダメになるのはどうなんだろう。うーん、味覚障害の神経以外の原因も見てみます。
そうなると俄然これかなと思うのは、その他の原因の「拷問機械による舌の圧迫や炎症による障害」です。物理的に筋肉だけでなく神経の障害もおこることもありそうです。
咽頭鏡-喉頭鏡 - Satou - Nagashima Medical Instruments - 直角 / 薄板付より
手術中はかなりエキセントリックな器具で僕の口はこじ開けられていたようです。
ここで味覚を感じるメカニズムの起点を見てみると、割と有名ですが味覚のセンサーは味蕾という器官が担っています。
4味の中では塩味と酸味については下の資料のとおり、他の味よりも少し複雑な過程を経て感じるようです。塩味と酸味は、他の味のセンサーが直接脳に信号を送る仕組みなのとはちがい、味を感じたことを脳へ知らせるための信号を出しを他の細胞に受け持ってもらったりもしています。複雑なものほど壊れやすいのが世の常なので、恋心や厨二心ほどでは無くても酸味と塩味のセンダーも大変壊れやすくて、他の味のセンサーなら大丈夫な物理ストレスでも壊れてしまったのかもしれません(涙。
味覚受容体とチャネルタンパク質
味覚:味を感じる仕組み | ページ 3 | 株式会社ユーザーライフサイエンスより
傾向と対策
さて、きちんと評価したいなとおもったけれどこれ以上は確認しようがなさそうです。
考えられる原因を想定して傾向と対策を立てたいなと思って調べ始めたけれど、原因に関わらずやれることはあまり無いということもうっすらわかってきたというのもあります。
というわけで傾向と対策ですが、まずはダメージを受けたかもしれない神経や味蕾の回復です。これは再生を促すと考えられているものをしっかり摂取するしかないので、味覚のために質の良い亜鉛、味覚と神経のためにビタミンB-12をしっかり摂取することにします。
ぼくは昔の手術のせいでビタミンB12の吸収を担う小腸の後ろの方(回腸末端)がないのでビタミンBについては本来補充は不要なほどの「どでかいビタミンBコンプレックス」を飲んでいたのですが、調べていると厚労省の情報発信ページによると
「現存する科学的根拠(エビデンス)では、吸収やバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)に関して分子構造間での相違点は何も示唆されていない。しかし、人体がサプリメントからビタミンB12を吸収できる能力は、大半が内因子の産生量により制限される。例えば、健康な人では、実際には経口サプリメント500µgのうち約10µgしか吸収されない。
経口サプリメントに関して捕足すると、ビタミンB12は舌下錠あるいはトローチ剤など、口腔粘膜から吸収される製剤としても利用可能である。これらの剤型は優れたバイオアベイラビリティがあるとして販売されることが多いが、内服剤と舌下錠との間で有効性の違いを示唆するエビデンスはない。」
という気になる情報もありました。
簡単にいえば「どれだけ錠剤やカプセルを飲んでも内因子の働きで小腸から吸収されるのはほんのちょびっとです。トローチみたいなのは口腔粘膜から吸収されるから良いよ!とか言われたりもするけど本当に錠剤やカプセルよりいいかのかはわかってないよ。」ってことですね。
でもぼくはそもそも小腸がないのでトローチは良い情報だなー。
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/1.html
というわけでぼくはせっせと亜鉛とビタミンB12 トローチを飲むことにしました。
もう一つの方法は「味覚が戻るのをまつ」というものです。味蕾の寿命は4日〜1ヶ月と報告により幅があるのですが日々新しい味蕾に置き換わっているようなので、味のある未来をじっと待つというのはあんがい良いのかもしれません。(言っちまった)
追記
亜鉛については病院からも処方してもらえるようになりました。でも亜鉛って飲むとずいぶん胃が重くなります。
ちなみに元々飲んでたドデカいBコンプレックスはこんなのです。これも続けてます。早く良くなれー!
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→つぎの味覚障害のはなし
塩味がないよ ④ - 味覚障害のはなし(いろんな味クエスト) - かえるくんのおうちラボ blog
*1:諸説あり